いつか見つけてね。


いきなり美穂の電話のはずが


「もしもし、ノブ兄?」


岳斗だとすぐにわかった。



岳斗がアキラのところでバイトを始めたのは知っていたからもしかしたら一緒にいるんじゃないかと薄々思っていた。


相変わらず人懐っこく話しかける岳斗は俺のことを兄のように慕っているようだ。



だが、まさか美穂の電話を岳斗が受けるのにいらだちを感じる。

そして極めつけに二人だけの呼名まで持っていてそれを携帯越しに聞かされた時にはガタンと側においてあったゴミ箱を蹴飛ばしてしまった。


エミと美穂のことを呼んだあとに携帯を受け取る美穂におにぎりを食べてると聞かされて俺の机の上のおにぎりを見つめてほくそ笑む。


だが、岳斗と美穂の距離が近くて焦った俺は帰りに迎えに行くと約束してしまった。



ゴミ箱を蹴飛ばした音で慌てて入ってきた妹尾が美穂と話しているときは何も言わなかったが電話を切った後


「社長、今日は夜に宴会が予定されていますが。

欠席なさるおつもりじゃないですよね?」


と、俺にわかっているだろ?と言わんばかりの目を向けてくる。



わかってる。

今日のパーティーは海外からわざわざやってくるVIPのために料亭を借り切っての顔見世になるのだと。


だから、俺が拔けることは許されない。



「妹尾、


美穂を家まで送るだけだ。


俺も着替えに帰りたいし。」



すぐに戻ってくるというと思いっきりため息をつかれ、


「すぐに戻ってこいよ。それまでこっちでなんとかやっとくから。」


そう言われてからの俺は一気に仕事を片付けて、美穂を迎えに会社へ向かった。

岳斗と一緒に出てきた美穂だったが、「今日は急いでいる」と言うと


「それじゃまた後で会いましょう、これからはいつでも会えるんだしさ、兄貴。」と岳斗は手を降って帰っていった。結構さっぱりしてて驚いた。よくなついてたやつだったから。



美穂も、慌てて車に乗り込む。


「少しだけでも一緒に時間過ごしたかったから、迎えに来たけど


実はこの後また仕事なんだ。」


というと


「光信が仕事終わってから連絡くれたら、

夜食作って待ってます。


今日で仕事納めだったからしばらくゆっくりなので。」


なんて可愛いことを言ってくれる。


二人で駐車場から部屋までの歩きに美穂の姿を見ると俺の見立てたニットがよく似合っていて、手放したくない衝動に駆られたが、今日だけは遅れるわけにも行かないから我慢して


「終わったらすぐに迎えに行くから。」


と玄関まで送ってその場を後にした。






まさか、まりながあんな行動に出るとは想像もしていなかった。





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