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「もうやめろよ、こんなもの」

そういうと彼は私のケータイをひょいと取り上げ、

え?と私が思う間に軽々と反対側に……
そう、折れるはずのないありえない方向へと両手で曲げてしまった。

「ミシ」と「パキ」と「バキ」とそんな音が同時に混じったような音がして

私のケータイは一瞬でただのプラスチックの塊になってしまった。

ピンク色で3年使った、いい加減古くささと使用感が漂う私のケータイ。

ずいぶん前に貼ったままの、擦り切れてみすぼらしさを強調するだけになっていた猫のシール。
まるでこわれた子供のおもちゃみたいになってしまった「ソレ」にあまりに似合いすぎていて、驚きとか、怒りとか、そういう感情はまったく湧かなかった。

ただ、そのとき聞こえたその音だけは、まだ会って数日しか経っていない、彼のミステリアスな印象とセットとなって、私の中の彼の存在を決定づける音となった。


私は、彼のことを何も知らない。

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