月夜のメティエ
トイレで泣こう。少しだけだけど。そして気持ちリセットしてこよう。
フロアから出て、トイレへ駆け込む。あんまり時間かかってると仕事がはかどらないから、すぐ戻ろう。少し涙を出せばスッキリするし。
こうしてトイレの個室で泣いてると、中学の時を思い出す。
14歳のあたしは、奏真が居なくなったことを受け入れることができなくて、泣いてばかりいた。授業中突然、泣きたくなる。そうすると「トイレに行かせてください」と言って、授業を抜けたりした。
あたしは、奏真と過ごす時間は特別だと思っていたけど、奏真はそうじゃなかったのか。なんで、転校することを教えてくれなかったのか。
なんでなの。どうして……? 受け入れることも出来ず、消化しきれなくて、静かなトイレで、便器に向かって泣いていた。いまのあたしも同じことしてる。なんだか、おかしかった。