月夜のメティエ
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この番号は、変わってないのかな……。スマホの画面を見て過ごして、30分は経っているだろうか。マーコの番号を出して、それをさっきからずっと見てかけあぐねているのだ。
2年は連絡してない。その間にあたしは番号が変わった。かけたところで出るか分からない。
「んー……でもかけないと進まない」
ベッドに寝転がり悶々としていたけれど、よいっと起き上がりあぐらをかいた。そして意を決して発信タップ。プルルプルル……ああ、かかるんだ。マーコかな、出るかな。起きてるかな。ただいまの時刻、21時半。
「……はい、もしもし」
数回のコールで、出ないなと思い始めた時、女性の声がした。「あっ」とっさに出た変な声。
「あ、あの……マーコ? ですか?」
「え? はい……マーコ……あれ?」
マーコだ。電話に出た。番号変わってなかったんだ。
「あたし、朱理だよ。マーコ!」
「え、朱理! わー! 久しぶり~知らない番号だから誰かと思ったよ!」
明るい声も変わってないな。
「ごめんなんか全然連絡しなくて。いま喋れるの?」
「あーいいよ子供寝たし、旦那はお風呂だし」
なんか奥さんとお母さんしてるな。懐かしい……一気に中学生に戻る気持ち。
「子供何歳になったの? なんかお祝いもしてないな……ごめん」
「あやまってばっかだなー別に良いって育ってるから~。2歳になったよ」
「男の子だったよね」
「そう、もうやんちゃでさぁ。旦那にそっくりでもう1人ちっちゃいの居るみたいだよ」
キャハハって笑う声。聞いていてとても心地良かった。電話して良かった。
「電話くれて嬉しいわぁ~あたし専業主婦で、友達もこっちにあんまり居ないからさ。朱理は? もしかしてこれ結婚の報告?」
「残念だけど違いますー。大学卒業してから就職して、それから仕事してるよ。市内にずっといるし」
スマホを持ったまま、缶ビールを取りにキッチンへ行った。つまみなんかあったかな。