月夜のメティエ

***

 この番号は、変わってないのかな……。スマホの画面を見て過ごして、30分は経っているだろうか。マーコの番号を出して、それをさっきからずっと見てかけあぐねているのだ。

 2年は連絡してない。その間にあたしは番号が変わった。かけたところで出るか分からない。

「んー……でもかけないと進まない」

 ベッドに寝転がり悶々としていたけれど、よいっと起き上がりあぐらをかいた。そして意を決して発信タップ。プルルプルル……ああ、かかるんだ。マーコかな、出るかな。起きてるかな。ただいまの時刻、21時半。

「……はい、もしもし」

 数回のコールで、出ないなと思い始めた時、女性の声がした。「あっ」とっさに出た変な声。

「あ、あの……マーコ? ですか?」

「え? はい……マーコ……あれ?」

 マーコだ。電話に出た。番号変わってなかったんだ。

「あたし、朱理だよ。マーコ!」

「え、朱理! わー! 久しぶり~知らない番号だから誰かと思ったよ!」

 明るい声も変わってないな。

「ごめんなんか全然連絡しなくて。いま喋れるの?」

「あーいいよ子供寝たし、旦那はお風呂だし」

 なんか奥さんとお母さんしてるな。懐かしい……一気に中学生に戻る気持ち。

「子供何歳になったの? なんかお祝いもしてないな……ごめん」

「あやまってばっかだなー別に良いって育ってるから~。2歳になったよ」

「男の子だったよね」

「そう、もうやんちゃでさぁ。旦那にそっくりでもう1人ちっちゃいの居るみたいだよ」

 キャハハって笑う声。聞いていてとても心地良かった。電話して良かった。

「電話くれて嬉しいわぁ~あたし専業主婦で、友達もこっちにあんまり居ないからさ。朱理は? もしかしてこれ結婚の報告?」

「残念だけど違いますー。大学卒業してから就職して、それから仕事してるよ。市内にずっといるし」

 スマホを持ったまま、缶ビールを取りにキッチンへ行った。つまみなんかあったかな。

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