月夜のメティエ
あたしの視界に入る広さの中で、どれだけの人が、喜び悲しみ苦しみを抱えて、憎み合い、許したり、そして愛し合って、息をしているんだろう。想像も付かない。
会社の昼休み。休憩室の窓から外を眺める。休憩室と言っても名ばかりで、楕円の会議テーブルとパイプ椅子が置いてあるだけ。少し開けた窓から入る風が、肩にかかった長めの髪をすくって行く。
中学生だったあの時も、こうしてぼんやり外を見ていたんだ。3階の窓から。晴れていた。その高い青空は、見上げてると胸が痛くて仕方がなかった。まだ10代だったから、ちっぽけな存在だったから。大きな存在を前に、なんて自分は小さいんだろうと余計にそう感じて、胸が痛かったのかもしれない。
高くて澄んだ青空は、絶対だ。
中2の夏休みというのは、楽しみと辛さで出来ている。そう思った。もっと色々混合されてるだろうけど。パーセンテージの関係で。楽しみと辛さ以外に何かあるとすれば、我慢かな。でも我慢=辛さだから。
来年受験だし、そもそも受験を乗り越えられる精神力と学力が自分にあるのかとか。そういうことを考えて、夏休みの課題もろくにやらずに無駄に過ごした気がする。
きっとクラスのみんなは、頑張ってるに違いない。こんなにだらしなく過ごしているのは自分だけかも。
脳みそに数字や英語が入りすぎて、窒息しそうだったから、あたしは「1時間くらい、コンビニ行ってくる」と母親に言って、外に出た。小学生の弟に「アイス買ってきてー」と言われてしまった。
散歩をしたかっただけ。気分転換というか、窒息しそうな脳みその、空気の入れ換えをしたかった。
コンビニまで徒歩15分。1時間もかからない。そして通ってる中学校までは徒歩30分。学校に行ってみようかな。なんとなくそう思った。いつも通学は自転車だけど、空気の入れ換えならば歩いた方が良さそうだ。
通学路と違う道を通って行こう。うちの学校は通学路を通らないと職員室呼び出しを食らう学校だった。なんでバレるんだろうか。きっと内通者が居るに違いない。もしくは密告者。
Tシャツの上に薄手のカーディガンを羽織り、下はデニムのショートパンツ。まだまだ暑いけど、今夜は風があって涼しく感じる。