月夜のメティエ
冬の日曜日。ひんやりした空気でも、雲の無い青空。同窓会当日、晴れて良かった。
忙しくて残業もあり、家と会社の往復だけで日々が過ぎてしまっていた。でも、同窓会1週間前になんとか美容室、やっと同窓会前日に買い物とネイルサロンだけ行けた。ネイルは、あまりしょっちゅうは行かないんだけれど……。
綺麗にしてもらった爪を見て、心が躍る。指輪もしない飾りのない手だけれど、指先に花が咲いたみたい。薄いピンクと虹色ホログラム。邪魔にならないよう小さいクリスタルのスワロを付けて貰った。「色白の手にお似合いですよ」とネイリストさんが言ってくれて、とても嬉しかった。
同窓会の会場は、地元にある旅館の宴会場。小さい町だけど海辺の町だから景色が良く、水産加工品もあり、数軒の旅館や民宿が建っている。大リゾート地にある巨大旅館や巨大ホテルではないけれど、ここは町では一番大きな旅館で、老舗だし料理も美味しいと評判だった。
「宴会場って、じいちゃんばあちゃんの敬老会みたいだよねー」
「レストランとか無いからね……ちょっと離れても電車で繁華街に出てやった方が良かったんじゃないの」
そう言いながら、あたしとマーコは地元の駅から出て、タクシーで目的地の旅館へと向かっていた。
あたしが連絡を取った後、今度はマーコから連絡があった。何人か割と仲良かった子達が来るらしい。自分であの後、色んな人に連絡を取ったらしい。幹事でもないのに、よく気が利く子だ。
マーコが仲良くても、あたしは蚊帳の外だろうな……。寂しい。
「美帆ちゃんとか来るらしいよ。別な人から聞いたんだけど」
「……美帆、ちゃん」
忘れていたその名前を突然出され、思考が揺らいだ。あの美帆ちゃんが来るんだ。
「そう、なの」
「懐かしいなー。今日何人ぐらい来るんだろうね。クラス会じゃなくて学年だから、もう覚えてない人も居そうだけど」
マーコの言葉に適当に相槌を打って、タクシーの窓から過ぎていく地元の景色を見ていた。
あの日、イチオンの廊下の窓から見下ろしていた光景が鮮明に思い出される。あの2人、知り合いだったんだ。奏真は居なくなって、美帆ちゃんに聞けるわけもなく、3年になりクラスも別々になり、高校も別。あの時の、14歳のあたしは、あのままで心の奥に置き去りになってしまっていた。