月夜のメティエ
 旅館に到着すると、少しおしゃれをした女性がロビーに数名。あれは宿泊客なのか、それとも同窓会に来た人なのか。それよりも何よりもまず……誰だか分からない。

「あれ、そうかなぁ」

 マーコも同じことを思っていたみたいだ。「松岡中学校○期生同窓会」という受付を見つけて、そこへ向かう。

「ようこそー」

 そう言って茶髪でチャラそうな、背の高いスーツ姿の男性が「こちらに名前を……」と言ってペンを渡してくれた。あれ……? この人……。

「……前田?」

「お、お前! 相田か、相田 朱理!」

 あの前田か! あのうるさい前田。あのまま大人になったって感じだなぁ。あんまり変わってない気がする。

「うわー懐かしいけど、変わってないねー前田」

「そうかぁ? 大人の男だろ」

「前田チャラい」

「お、お前マーコ! 遠いところありがとうなー」

「旅費は前田に請求するね!」

 マーコと前田って、こんなに息ぴったりだったっけ。なんだか大人になって、懐かしさも手伝ってはしゃいでる。後ろでも横でも、あちこちで「わー久しぶり!」「懐かしいなぁ」とか声が聞こえる。今日は本当に何人来るんだろうか。

「散り散りになった同級生探すの、凄い大変だったぜー。来られない奴は残念だけどさ」

「前田って幹事だっけ?」

 名簿に名前を記帳したマーコは、前田に聞いた。マーコの名前はかっこ書きで旧姓が書いてあった。

「いんや、幹事は別な奴だけど、地元に残ってるし手伝ってさ。相田やマーコみたいに実家は地元のままな奴とかは良かったんだけど、外国とか行ってる奴が居たり、実家が引っ越ししちゃってたりな」

「あーそういう人はなかなかね」

 あたしは家を出ていたけど、うちはまだ良かった方なんだ。

「TwitterとかFacebookでお知らせ?」

「そうそう。あ、マーコLINEやってる?」

「やってるよ。後でID教えるー」

「おーサンキュ!」

 2人だけで盛り上がってるけど、あたしはLINEやってないし、なんか悲しい。良いもん。後で前田に連絡先教えよう。電話とメールください。

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