月夜のメティエ
開始時間になって、宴会場で司会が挨拶をし(これも前田だった)招かれた先生達から挨拶があったりして、そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。今日はお酒アリ。あんまり酔っぱらわないようにしよう……。
宴会場に居る元・生徒達は全部で30人くらいだろうか。畳の会場だったから、お膳だ。なんだか昭和の匂いがする。まぁ、こういうのもアットホームな感じで良いね。カラオケセットもあるけど、前田は間違いなく歌うんだろうな。
お膳がいくつか空席だ。遅刻して来る人が居るんだろうな。
「何人に声かけたんだろうねー。あたしもっと大勢来るのかと思ってた。こんなもんなのかな」
「仕事あったり、連絡付かない人も居たんだろうね。集まった方なんじゃないの?」
「そっかー」
マーコは何人想像していたのだろうか。
中学3年間クラスが一緒だった人って居なかった気がする。マーコは2年と3年一緒だったけど。でも顔を覚えていて声をかけてくれる人、あの時こうだったよね、ああだったよねと、おぼろげな記憶の中でなんとか話をしていた。こういうのもけっこう楽しい。運動会のこととか。部活のこととか。懐かしいなぁ。
「あ、美帆ちゃんまだ来てないのかな」
そうだった。彼女も今日来るらしいと……。彼女とは2年の時だけだな、クラス一緒だったの。奏真のことがあるから、それと繋げて覚えているんだ。
注がれたビールをひとくち。マーコも今日ばかりは少し飲むらしい。家ではあまり飲まないそうだけど。
「わー結構居るんだね~」
そう女性の声が聞こえたのは、開始から30分が過ぎた頃だった。宴会場の後ろから入ってきた、青いワンピースの、肩までの髪の女性。「素敵な大人の女性」という言葉がとても似合う人だった。
「あれ……美帆ちゃんじゃん。美帆ちゃーん!」
えっ。
「あ、マーコちゃん! 朱理ちゃんも!」
「きゃー懐かしいー!」
町田 美帆。元から綺麗な子だったけど、大人になって更に洗練された感じがする。
マーコが美帆ちゃんをこっちに呼び寄せた。マーコの隣のお膳がふたつ、空いていたからだ。
「おー! そーまも来たな!」
……え? 空耳? いま、なんて……。
「前田! すまん、遅くなって」
「忙しかったんだろ? 良いから良いから。早く座って」
前田がもうビールを注ぐ姿勢でスタンバイしてる。
他のみんなはワイワイと話に夢中で、あとから人が増えたなんていうことに気付かないみたい。
あたしの前を、品の良い深いグリーンのコートを着て、かっちりとしたパンツを履いた男の人が通った。そして、マーコの隣の空席へと収まる。