月夜のメティエ
「マーコちゃん、ママなんだってね。なんか信じられない」

 静かに座った。すると、前田がお酌をしに来た。

「ごめん。あたしお酒飲めないの」
「そーなの? じゃあジュースかウーロン茶か」

 中学生の時のイメージしか無い人が目の前に3人。混乱している。あたしが。

「さっさと結婚して、さっさと子供産んじゃった~えへへ」

 あたしは、彼から目が離せない。マーコと美帆ちゃんの会話が邪魔。

「今日、そーまで31人だよ。割と集まった方だと思う」
「お疲れさまだなー前田。飲んでんの?」

 お返しに前田にビールを注いでいる。

 奏真、って言ったよね。あの奏真くんなの?

 あんまり見ていると怪しまれる。でも見ないわけに行かない。お酒の酔いなんか一気に醒めてしまった。
 あの林 奏真なの? あたしのこと覚えてるの? なんで居るの? 2年で転校して行ったけど、今日呼ばれていたんだ。ああ……前田と仲良かったから、きっと呼ばれたんだ。

 なんであの時、何も言わないで転校して行ってしまったの?

 数々の疑問がバラバラに頭に浮かんで、唇が乾いていった。
 というか……美帆ちゃんと一緒に来た? さっき……。隣同士で座ってるし。なんで一緒だったんだろう。

「美帆ちゃん、隣どなた? うちの同級生?」
「ああ、知らないよね。2年までうちの学校だったんだよ」

 マーコと美帆ちゃんがそう会話をしていた。

「へぇ。一緒に来たから彼氏かと思った」

 マーコは奏真を知らない。のほほんとそんなことを言っている。

「まぁちょっと……知り合いでね。今日一緒に来ただけよ」

 知り合いだったの? ああもう。イチオンの廊下から見ていたあの光景が思い出される。そうだよ、知り合いなんだよ。関係は知らないけど。

「うち、実家がピアノ教室でさ。彼、林 奏真っていうんだけど、ピアノやっててその関係で……」

「へー。林くん覚えてないわ」
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