月夜のメティエ
 流行に敏感で、おしゃれして、習い事、塾のことなど。遊びだけじゃなくて勉強もちゃんとしてるんだろう。
 キラキラしてるクラスの女子達は、そうでないあたしの様なタイプから見ても可愛らしいし、憧れる。少しうるさいけれど。この夏休みにも、中学生の女の子達は進化していく。
 あたしときたら、小学校1年から習ってたピアノも、中学入学と同時に練習しなくなって辞めちゃったし、成績は中の中。取り得も無い。学校はそれなりに楽しいけれど。

 夜風を浴びながら、商店街を抜ける。夜といってもまだ薄暗い程度の時間だけれど。途中にあった壁時計は19時を少し過ぎた時間を示していた。

 彼女達みたいだったら、毎日楽しそうなんだけどな。実際いつも楽しそうだし。あたしは友達と群れてキャッキャすることもしないし、あの中には入れないんだろうな。
 
 そうくだらないことを考えていたら、学校に着いた。

 校門で、校庭をぐるりと見渡す。とっぷり暮れているわけじゃなかったから校庭の奥の方まで見える。誰も居ない。まぁ当たり前だけど。校舎も電気が点いている教室が無かったから、誰も居ないんだろう。
 端に花壇があって、囲いのレンガに腰掛ける。
 真っ暗になる前に帰ろうとは思うけど、誰も居ない校庭をぼんやり見てると、頭が空っぽになっていって、気持ちよかった。投げ出した足。スニーカーは少し汚れていたけど、お気に入りだった。
 クラスのキラキラ女子達は、ヒールのあるサンダルとかを履くんだろう。あたしはそういうガラじゃない。

「あーあ」

 ため息を出した。薄暗くて温い空気に吸い込まれて行った。
 なんで気分転換に学校へなんて来たのか。あたしは見上げる。校舎3階の端の、あそこの窓。あれは音楽室。
 あたし知ってるんだ。あそこから時々、ピアノ曲が流れてくるのを。朝早く、放課後遅く。本当に時々。夏休みだし、居るわけないって分かってて来てしまった。

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