月夜のメティエ
気付いたのは夏休み前のこと。
「ねぇ、第一音楽室からたまにピアノ弾いてるの聞こえてくるんだけど、知ってた?」
同じクラスの仲良しの子に聞いてみたけど、みんな言うことは同じだった。
「へー? 知らないけど、なにそれホラー? ベートーベンの肖像画がピアノ弾いてるんじゃないの?」
「……違うけど」
そんなわけないだろう。肖像画がピアノ弾くってなに。
校舎の端にある特別教室なんて、忘れられた存在。「第一」があるということは「第二」が存在するんだろうなっていう想像通りで、第二音楽室の方が広くて綺麗だから、そっちばかり使われる。第一音楽室は、校舎の端だし、陽当たりも悪いしで、忘れられた教室だったのだ。略して「イチオン」で、第二音楽室は「ニオン」だ。
なにより「イチオンから幽霊が弾くピアノが聞こえる」という学園ホラーを広めるわけにもいかず、あまりまわりには言わないようにしていた。
埃っぽい校舎の端から、聞こえてくるピアノの音。それに導かれるようにして、あたしは第一音楽室へ行ったんだ。
それから、時々行ってみるようになった。聞こえる時と聞こえない時とあるけど。夏休みが終わって、秋を感じる頃にまた、第一音楽室へ通うようになる。
「あ、また聞こえる」
音楽室へ行ってみたところで、必ずその「ピアノの主」が弾いてるとは限らないわけで。
ピアノは小学生の頃に習っていたけれど、向いていなかった様で辞めてしまった。レッスン料だってかかるわけだし……。だからピアノに関しての知識なんてたかが知れてるし、そんなに詳しいわけじゃなかった。でも、この曲は知ってる。ピアノの音は好きなんだ、とても。
「月光……」
ベートーベンのピアノソナタ第14番。第一楽章、通称「月光」だ。
けっこう難しい曲なのに(少なくともあたしは弾けない)ミスタッチ無しで弾いてる。弾ける人なんだ。1曲終わるまで聞き入ってしまっていて、終わったことに気付かず、人が出てくる気配があって、ダッシュで逃げたんだった。
この間はたしかドビュッシーの「月の光」だった。好きな曲だ。その前はラフマニノフ。このへんはクラシック好きなら一度は耳にしたことのある曲。止まったりせずに弾いていて、上手いなぁ。
「ねぇ、第一音楽室からたまにピアノ弾いてるの聞こえてくるんだけど、知ってた?」
同じクラスの仲良しの子に聞いてみたけど、みんな言うことは同じだった。
「へー? 知らないけど、なにそれホラー? ベートーベンの肖像画がピアノ弾いてるんじゃないの?」
「……違うけど」
そんなわけないだろう。肖像画がピアノ弾くってなに。
校舎の端にある特別教室なんて、忘れられた存在。「第一」があるということは「第二」が存在するんだろうなっていう想像通りで、第二音楽室の方が広くて綺麗だから、そっちばかり使われる。第一音楽室は、校舎の端だし、陽当たりも悪いしで、忘れられた教室だったのだ。略して「イチオン」で、第二音楽室は「ニオン」だ。
なにより「イチオンから幽霊が弾くピアノが聞こえる」という学園ホラーを広めるわけにもいかず、あまりまわりには言わないようにしていた。
埃っぽい校舎の端から、聞こえてくるピアノの音。それに導かれるようにして、あたしは第一音楽室へ行ったんだ。
それから、時々行ってみるようになった。聞こえる時と聞こえない時とあるけど。夏休みが終わって、秋を感じる頃にまた、第一音楽室へ通うようになる。
「あ、また聞こえる」
音楽室へ行ってみたところで、必ずその「ピアノの主」が弾いてるとは限らないわけで。
ピアノは小学生の頃に習っていたけれど、向いていなかった様で辞めてしまった。レッスン料だってかかるわけだし……。だからピアノに関しての知識なんてたかが知れてるし、そんなに詳しいわけじゃなかった。でも、この曲は知ってる。ピアノの音は好きなんだ、とても。
「月光……」
ベートーベンのピアノソナタ第14番。第一楽章、通称「月光」だ。
けっこう難しい曲なのに(少なくともあたしは弾けない)ミスタッチ無しで弾いてる。弾ける人なんだ。1曲終わるまで聞き入ってしまっていて、終わったことに気付かず、人が出てくる気配があって、ダッシュで逃げたんだった。
この間はたしかドビュッシーの「月の光」だった。好きな曲だ。その前はラフマニノフ。このへんはクラシック好きなら一度は耳にしたことのある曲。止まったりせずに弾いていて、上手いなぁ。