月夜のメティエ

 ガン! ガガガッ!

「ひゃ!」
「うわ」

 ドアが急に開いて、耳に爆音。背の高い影。影っていうか男性だったけど。重たそうなドアをよくもまぁ軽々と。ドアが開いた瞬間、中からロックが爆音で流れ出てきて、耳を直撃した。「B-Rose」から人が出てきたのだ。肩までの黒髪で、顎に少し髭を生やし、綺麗な顔立ちの。わあ、モデルさんみたいだなぁ。

「悪いね」
「すみません」

 あたしが驚いたから、謝られてしまった。Tシャツの上にジャケットを羽織ろうとしながら出てきたんだけど、腕にたくさん刺青があったのを見てしまった。

「タケさん~! 予約入りましたから早く帰ってきてくださいよぉ」

 追っかけて出てきた男の子。

「あー適当にやっといて。ミナトに任せる」

「まじすか!」

 店から出てきた子は店員なんだな。この男性も店の人なのかな……。

「あ、うち? どうぞ~」

「ああ、いいえ。奥の……」

 あたしはICHIROを指さした。店員の男の子も不思議そうにあたしを見てる。

「そっか。お姉さん、ここ俺の店だから、うちにも飲みに来てね」

「は、はぁ……」

 ええ、なに。ああ……。あたしは圧倒されて動けない。

「あ、よろしくお願いしまーす。ICHIROも良い店だけど、うちもよろしく!」

 店員の子はまだ10代? 可愛らしい顔で「よろしく」って笑う。最初に出てきた男性は「じゃ」と言って言ってしまった。

「失礼しまーす」

 店員の男の子は重たそうな鉄のドアをギャッチャン! と閉めて店に戻ってしまった。なんだったんだ今のは。

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