月夜のメティエ
「でも僕、いますぐ結婚してやってく自信、無いっす」
「そんなの26のあたしも自信無いわ」
彼の返事に間髪入れず言ってしまった。
「自信てなんの自信って話だから。23だろうが30だろうが。彼女とずっと一緒に居たい?」
「ああ、それは。好きなんで」
あたしの言葉に返してきたその答えがなんだかあたしは好きになれなかった。そんなことを言ったら、米田くんを好きで一緒に居る彼女に悪いんだけども。
「支障が無いなら結婚考えればいいじゃない。あと、もうちょっと先にしたいなら、自信無いから25になったらしよう、とかさ」
カズヨ先輩が、システムの説明をするように淡々と諭している。
「僕、そういう真面目な話、苦手なんすよ」
「そうやってのらりくらりしてると、彼女いなくなるよ。情けないなって」
「えー」
「そういう空気がだめなんじゃないの」
そりゃそうだ。カズヨ先輩の言うことに同意。つき合い長いとか短いとかよりも、彼のこの態度、愛想尽かされそうだなぁなんて思ったりして。
「先輩2人に言われると、説得力あるなぁ……」
肩を落としてしまった。責めているわけじゃないんだけど、なんかねぇ。しっかりしなさいよ。なんて……あたしが言えることじゃないけど。
ちょっと肩を落としてしまった米田くんと、まだパンあるんだけどーとか言ってるカズヨ先輩。
交互に見ながらあたしは、好きな人と結婚して、その人とずっと支え合って生きていく、そういうことを決心する日が来るのだろうかと思っていた。
今は考えつかない。そして、思い浮かぶのは奏真の顔だった。好きじゃないと結婚はできないけれど、好きなだけじゃできない。
ぼんやりとそんなことを考えながら、パンをもう1つ手に取った。