月夜のメティエ

「あ、マーコ。ごめんお風呂入ってた。大丈夫?」

「朱理こそ。仕事中だったかなと思って」

 もうすぐ23時だ。遅くなることはあっても、この時間まで仕事をしていたことは無かったかもしれない。業種にもよるだろうけれど。

「大丈夫だよ、あたし1人だし」

「うち旦那も子供も寝たから、1人の時間よぉ」

 マーコは、特に用事があったわけではなく、どうしているのかなと思って連絡をくれたらしい。

「旦那さん、元気?」

「元気だよー。子供と遊んで、遊び疲れて寝てるし。子供か」

 楽しそうだな。マーコはお母さんだから大変だろうけど。

「マーコの旦那さんって、妊娠した時はどんなだった?」

「なに朱理。妊娠したの?」

「してないってなんでそうなるの」

 なんでそこまで飛ぶんだ。まぁ、そこが明るくてマーコの楽しいところだけど。

「入籍と妊娠が同時みたいなもんだったからなぁ。結婚しようハイ子供できちゃった! みたいな。できちゃったから入籍したんじゃないのよ、一応は」

「そうなんだ」

 なんか勝手におめでたからの結婚だと思ってた。ごめん。

「よく言われるけどねー。うちの人は喜んでくれたよ」

「そっかーそうだよね」

 結婚しようと思ってた。そして子供いらないと思ってたなら別だけど、結婚と同時にできてましたーなんて、ダブルで嬉しいよねきっと。

「なにどうしたの、急に。なんかあったんでしょ」

「ああ……うん。まぁ……」

「なによーまさか本当に妊娠したの?」

 言いたい。聞いて欲しい。なのに戸惑って。
 濡れた髪から水滴が落ちる。

「違う違う。あたしじゃなくて」

「誰よ?」

「奏真くん……」

「え、ソーマくんてあの同窓会の! あの人妊娠してんの?」

「違うから」

 本当にもう。分かってて言ってるなこいつ。

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