月夜のメティエ
 こんな風にしか終わらせられない恋だ。どうにもならない。綺麗でも無いし、美しい思い出でもない。

「イチオンでの時間は、俺の天国だった」

 奏真の言葉を思い出す。そうだね、本当に天国だった。

 そうだった。天国は、あの頃で終わったんだ。なんで気付かなかったんだろう。
 天国から堕ちたんだよ。戻れるわけがない。なんてね。笑っちゃうよ。

 帰り道はやけに寒く、息の白さがますます寒さを感じさせる。この寒い中、美帆ちゃんは帰るのだろうか。お腹には影響が無いんだろうか。何ヶ月なんだろうか。

「奏真が好きなの?」

 彼女のその問いに、あたしが答えたからって、何になるんだろう。好きに決まってる。14歳の時も、いまだって。だからって何。あたしのこの、奏真が好きだという気持ちは変わらなくても、気持ちだけじゃ状況を変えられない。時間はもとに戻せない。分かってるじゃないか。

 寒いと思ったら、という感じで気が付けば小雪がちらついてきた。
 こんな最低女の帰り道に雪が降るなんて、凍えてしまえということか。

「……」

 泣くなよ。バカみたいだ。自分でバカなことをした罰だ。
 一度だけのキスは、別れと引き換えだ。
 
 溢れる涙も、凍ってしまえばいいのに。



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