月夜のメティエ

 今日で何日目だろう。美帆ちゃんと会ってから。奏真と連絡を取らなくなってから。

 着信はあるんだろうきっと。でもあたしには繋がらない。美帆ちゃんと話した次の日の仕事帰り。ショップに寄って、携帯番号を変えた。

 繋がらない、鳴らない電話。当たり前だ。この番号を、奏真は知らないんだから。

 美帆ちゃんは、あたしを会ったことをきっと話してるだろう。会わないと言っていたと、伝わってると思う。もう、あたしに気持ちも無くて、やっぱり美帆ちゃんとやり直そうと思ってるんじゃないだろうか。結局あたしに電話などしていないかもしれない。

 ああ。こうやってぐるぐる考えて日々を過ごしている。食欲も無いし夜もなんだか熟睡できていない。外は寒いし、何も楽しくない。こんな風になるなんて……。

 たかが……。何もかも無くしたような気持ちだ。

 奏真と再会する前に戻るだけ、そう思っていたけど、再会前よりも悲しさがプラスされて、ここから這い上がれるような気がしないでいる。

 友達と飲みに行っても、好きな映画を観て漫画を読んでも、楽しくない。
 仕事がバタバタと忙しければ、それで気が紛れたけど。余計なことを考えなくて済むから。


 14歳の奏真と、26歳の奏真。あたしはどちらにも恋をし、そして実らなかった。なんだろうこの喪失感。

 まぁそうだよね。恋をしていた。喪失感があって当たり前だけど。心に穴が空くというよりも、心そのものが、すっぽりどこかへ無くなってしまったみたいだった。

 たまに「人は本当に悲しいと涙が出ない」と聞く。あたしはたくさん涙が出るよ。悲しくて仕方がない。本当に悲しい涙も認められて欲しい。


 雪が降っても積もらない日があった。イルミネーションはド派手に街を彩って、そしてやがて降った雪は積もるようになる。雪が降る手前には、ぎゅっと寒くなるのを知ってる。雪の匂いがする。そして、年が明けた。

 会社は年末年始の休みに突入していたから、あたしは実家へ帰る。毎年恒例だ。マンションに居てもつまらないし……。
                 


< 89 / 131 >

この作品をシェア

pagetop