月夜のメティエ

「僕、校長だから」

「こ、校長先生?!」

 校長が校門で、寒いから風邪ひくから!

「お、音楽室ですか」

「職員室に寄って、教頭先生が居るから、校長と会ったって話して行ってらっしゃい」

 前のめり。あたしはもう校長先生から離れて、行こうとしている。

「ありがとうございます」

「僕まだここに居るから。ここから出ていくことが条件ね」

「はい」

 校長に頭を下げ、あたしはすぐ近くの入口から入ることにした。上履き持ってきてないけど、スリッパがあるはずだ。すると、後ろからまた校長の声が聞こえた。

「あ、イチオンに行くって言ってたぞ~」

 ……そう、きっとそうだと思ってた。
 あたしはブーツを脱ぎ捨てて、靴下のまま職員室に走った。何階だったっけ。あたしの記憶力の無さよ。

「校長、嬉しくて入れちゃったんだろうなぁ。他に言わないでね、内緒だよ」

 たどり着いた職員室に居た教頭先生が、そう言って許可をくれた。普通なら部外者をそう簡単に入れないと思うのよね……。たとえ卒業生でも。

 普段はそうじゃないだろうけど、ゆるゆるで明るいお2人に感謝だ。

 あたしは、職員室よりも正確に覚えているイチオンに走った。廊下を走ってはいけません。そんな張り紙を走って通り越す。ごめんなさい。


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