月夜のメティエ

「音楽室に」

「自分で居なくなったくせに」

 言葉を切られて、固まってしまう。居なくなったくせに、その言葉が悲しく突き刺さった。


「……ごめん」

 そうだ、自分から……。

「連絡できないように、番号も変えて、会わないとか言ったそうだな。美帆に」

 当たり前か。美帆ちゃんから聞いてるか。そうだよね、2人は結婚するんだもの。

「そ、そうだね。ごめんあたし帰るね」

 何しに来たんだ。奏真が来てるって聞いて、来ちゃったけど、思い上がって何やってるんだ。会わないって言ったじゃない。バカなの?

「おい」

 行こうとするあたしの背中に、奏真の声がぶつかる。

「なんでそうやって勝手に決めるんだよ。勝手に解釈して勝手に決めるな」

 ガタガタ。外れた戸の音だろう。

「俺の、俺の気持ちはどうなるんだよ」

 会わないって決めたのに、なんで来ちゃったんだろう。

「おい」

「帰るね、ごめん」

「相田!」

 ガタン!
 うるさいな外れた戸!

「手伝えよ!」

 ……なに。

「俺のこと好きなら手伝えよ! 手ぇ離したら倒れるんだよ。怪我するぞ、俺が!」

「え、ちょっと……」

「早く!」

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