部屋に戻ると男はまだ眠っていて、けれどサイドテーブルにコーヒーを置くと、身じろぎしてようやく目をあけた

閉じられていたそこから赤い瞳が現れ思わず息をのむ

目を閉じていても整った造作なのはわかっていたけど、こんなに綺麗なんて…

「…お姉さん、お名前なんて言うの??」

急に名前を聞かれて、しかも関西なまりの口調に面食らったけど、平静を崩さないようにつとめる

「蝶子よ、君は?」
「俺は、ケイ言うねん
ここ、おねえさん家?」
「ええ」
「わざわざ連れてきてくれたん?俺のこと」

ありがとう、と関西弁のイントネーションで話す彼は、すごく無邪気な少年で。
けれどあんなところで捨てられたように眠っていた時点でわけありじゃないことは確か。

そこの事情を聞くつもりで口を開こうとした
…けれど、向こうの方が素早かった


「連れてきてくれたってことは
拾ってくれるん?俺のこと…」


…連れてきたのはただの好奇心
その先、どうするかなんてまったく考えてなくて、もちろん家におくつもりもなかった

何も知らない男-いくら幼そうにみえても-をここに住まわせるの?
しかも向こうは自分の素性を話す気はないらしい

 ぐるぐるいろんな思いが頭の中を回ったけれど
 私が口を開くまでにそう時間はかからなかった


「…いいわ、最近退屈だったし」


 最初から、私の負けだった






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