レンタル彼氏【完全版】
「…俺」


伊織は私の隣に体を投げ出して天井を見つめる。

そして、ポツリポツリ。
独り言のように話し始めた。


「自分から客に手出したの初めてだわ」


「…え」


それって…?

ボケッとしてた私は視線を伊織にずらした。



「初めてなんて、なおさら面倒だなんて思ってたよ」


また、自嘲気味に伊織が笑う。

伊織はいつも…。
いつも自分を落としめるような笑い方をする。


「泉とまだ会ったばかりなのに、泉はなんか、今までと違うんだよ」


「違う…?」


「……なんか、本音出せるの嬉しいんだわ」


「………」


ぐっと、胸が苦しくなる。
まるで心臓を掴まれたように。



伊織。



もう、レンタル彼氏なんてやめなよ。


そう、言えたらいいのに。


私に言う権利なんかない。
だけど。


「私っ」



伝えてもいいかなあ?



「伊織がねっ」



私の気持ちだけ。
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