レンタル彼氏【完全版】
「伊織!」



私の言葉を無視して、伊織はドアノブに手をかける。
私はそれを阻止するために伊織に駆け付けて、伊織の腕を引っ張った。


引っ張った反動で伊織が私と一緒に部屋に倒れこむ。



「…ったー」


「ごっ、ごめん」


慌てて顔を上げると、唇が触れそうな距離に伊織の顔があった。



「……………何なの」


こんな間近に顔があるのにも関わらず、伊織は訝しげな顔で私に言い捨てる。


これは、きっと彼が私を好きじゃないから出来ることだ。
わかってはいたけど、やっぱり悲しい。



「…今のなかったことにして!」


「……無理」


「いや、本当!迷惑かけないから!」


「無理!」


懇願する私をいとも簡単に振り切り、立ち上がる。
そして、パンパンと服をはたく。


「…伊織」


やっぱり伊織は無視して、ドアノブに再度手をかけた。
ひねりかけたと同時に。


「最後に!」
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