レンタル彼氏【完全版】
伊織の手が止まる。


それを確認してから私はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「最後に、一つ聞かせて」


それでも相変わらず伊織は黙ったままだ。


「………どうしてレンタル彼氏をしてるの?」



伊織の肩がぴくっと揺れたように見えた。


黙ったまま、私の質問には答えず伊織はドアノブに手をかけて出て行ってしまった。



………



結局、最後の最後まで。


私は伊織のことを何一つ知ることが出来なかった。



伊織は。




孤独の海で彷徨ってるように見えた。

誰かに温めてもらいたいのに、いざ見つけてもらえたらそれを拒む。


伊織を理解するのはきっと、私には無理だった。



だって。
私は至って平凡な両親の娘なんだから。



伊織がどんな思いでレンタル彼氏を始めたとか。
経緯とか。


想像も出来なかったんだ。




レンタル彼氏ってシステム自体、私には理解不能なんだから。
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