レンタル彼氏【完全版】
バタン!
俺がコーヒーを持ってこうと、振り向いたと同時に万里さんが机に思い切り手を打ち付けて立ち上がった。
…一段落したのかもしれない。
俺はいれたてのコーヒーを彼女に差し出した。
何も言わず、彼女はそれに口をつける。
それからゆっくりと唇が弧を描いた。
「……伊織」
「…はい」
「初めて会った時、私はまだ36だったわ」
「……覚えてるよ」
「…もう40ね」
「…………」
「正直言うとね、結婚はしたいと思ってるのよ?」
万里さんから出たその言葉は意外だった。
一人で生きていける女。
まさに万里さんの代名詞の様な言葉。
それが万里さんだったから。