レンタル彼氏【完全版】
待ち合わせ場所のファーストフードに、十分前に着いた私はそわそわしながら店の壁にもたれかかった。


先に来たの初めて、だな。
なんだかんだ、いつも伊織が先にいたもんな。

待つってこんな感じなんだ。

伊織も、私を待ってる時そわそわしたり、待ち遠しく思ったりしてくれてたのかな。


そんなことを考えてたら、少し伊織が可愛く思えて思わず微笑む。


「…何、にやついてんだよ?」


いきなり降り掛かったその声にハッとして顔を上げた。


そこには。
ずっとずっと待っていた、伊織の姿があった。


「…伊織」


「……こんなとこでにやついてんなよ、気持ちわりーよ」


「…ごめんっ」

しゅんとする私の横に来ると、伊織は私の腕を掴んだ。


「えっ?どこ、行くの?」

何も言わずにずんずんと伊織は前へ進む。
その後ろ姿は、何かいつもと違っていて。


なぜだか凄く不安になった。



伊織なのに。
伊織に思えなかった。
< 214 / 813 >

この作品をシェア

pagetop