レンタル彼氏【完全版】
好きという感情がわからない俺は。

この感情が何なのか、わからなくて。


胸が締め付けられそうなぐらい痛くて。


早く。
早く。


あの無機質な寮に戻って。
俺の世界に戻りたい。

そうして、しばらくしたら。
きっと。
俺は元に戻れるはずだ、よね。


さっきまで泉と来た道を、俺は足早に歩きだす。

その道中で見つけた、あの店。
もう、そこはボロボロで、誰も住んでないのは明らかだった。


『母さん』


『何?伊織』


『俺、母さんが作った玉子サンド好きなんだ』


『ふふ、伊織好きよね?じゃあ、また作ってあげるわね』


『うん!』



「…母さん」



この店を見ると。
鼓動が早くなって、息があがる。

ズキンズキンと、胸も、頭も痛くなる。


俺は。



俺は。
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