レンタル彼氏【完全版】
「行かないよ」


「どうして?いじめとかあった?」


「ううん、そんなもんない」


「なら、行けばいいじゃない」


「学校より、紀子さんと喫茶店で働いてる方が楽しいし」


俺は母親をどうしても、お母さんと呼べなくて紀子さんと呼んでいた。
ただ、恥ずかしいだけだったけど。


「…でも、勉強とかあるしねえ」


「勉強なんていいよ」


「よくないわよ!じゃあ、塾か何か行く?」


「そんな余裕ないでしょ」


「う、そうだけど。でもね!」


「わかった、わかった!」

俺はまだまだ続きそうだった小言を遮ると、人差し指を立てて母親に言った。


「毎日、一時間。
紀子さんが夕飯作ってる時に勉強する。
これでどう?」


「一時間!?」


「うん、一時間」


まだぶつぶつ文句垂れてる母親の作っている料理に手を出して、つまみ食いをする。


「あっ!」


「決まりねっ!うん、うまいっ」


「もう、伊織はしょうがないわね」


呆れた顔をしながらも、母親はすぐに吹き出して料理の仕上げに入った。
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