レンタル彼氏【完全版】
はぐらかしても…無駄かな。


拳を握り締めたまま、俺は母親の方を向けずにいた。


出来たら顔を見ないで、言いたい。
どんな顔してるかなんて見たくない。


でもそれを母親に阻止される。


「こっち、向きなさい」


俺の肩をがっしり掴む。
その細っこい体のどこにこんな力があるんだろう。

揺れる瞳で母親の顔を見る。


「…………最近…遅かったことに関係あるの?」


ほら。
簡単。単純。


また。
俺はこの人も壊すのか。


育てのあの人を狂わせたように。



「…………伊織…?」


ぐっと、言葉に詰まる。

でかかった言葉達を寸前で飲み込む。



「………怒らないから、言って頂戴」




……………




真っ直ぐ。
見つめるその視線が痛い。


胸に刺さる。
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