レンタル彼氏【完全版】
楽しく話す奧で、ガタガタと音が鳴る。

扉を叩くけたたましい音とともに、あいつの声がした。


“来た”と思った。


一瞬にして凍り付く、母さんの顔。


立ち上がろうとする母さんを制した。


「俺が行く」


「伊織っ」


止める母さんの言葉を無視して俺は扉に向かった。



扉を開けた先にいたのは。
相変わらず、ニヤニヤと薄気味悪く笑って。

赤い顔をした、あいつがいた。



「よお、息子。
母ちゃんどこだ?出してくれよ」


酒臭い息を撒き散らしてそいつは言った。
自然と眉をひそめる。



「…話がある」


そう言った俺を鋭く射ぬくようにそいつは見つめた。
それから空を仰いで大きく笑った。


「ハハハ、話なら俺もあるぞ。
金、貸してくれよ?前みたく」


何がおかしいのか、俺にはさっぱり理解不能だが前にいる男はゲラゲラ笑っている。


「……紀子さんと別れて下さい」
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