レンタル彼氏【完全版】
ピーンと、空気が張り詰めたのがわかった。


母さんもその言葉に驚いたのか、小さく俺の名前を呟く。


「ハハハハ、冗談きついぞ」


「冗談じゃない」


反論するそいつにぴしゃりと言う。


「……紀子さんはあんたといると不幸になる。
だから別れて」


キッっと睨み付けながら俺は言う。
こいつが忌々しい。


急に黙ったと思ったら、俺は後ろに飛ばされていた。


思い切り、あいつに殴られて。



がしゃがしゃと音を立てて机と椅子が倒れる。
すぐに母さんが俺の元へ走った。


「伊織っ!!」


ゆらゆらと。
ふらふらと。


俺に近付くそいつの顔は、正気ではないように見えた。


「父親に、口応えしやがって…」


そいつはぶつぶつ、呟いていた。


………口の中切ったか。
血の味がする。


じわりと香る鉄の味。


ぺっと吐き出すと、俺は心配する母さんの腕を引き離してそいつに掴みかかった。
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