レンタル彼氏【完全版】
だけど、俺の口から降って出た言葉は。


「か、あ…さん」


咄嗟に包丁を持ち出して、あいつを刺そうと体当たりした相手は。




母さんだった。


「……伊織…」


お腹からだらだらと血を垂れ流しながら、母さんは俺の方へと必死で体をたぐりよせる。


「………い、お…り」


声も言葉も途切れ途切れになって。


「………かあ、さんって…」


青白くなるその顔をにこりと笑わせる。


「な、何で!
何で庇ったりなんかするんだよ!」


無意識に俺はそんなことを口走っていた。
母さんは力なく首を振ると、眉を歪めながら俺を見る。



「…………お父さん、を、愛して…いたのよ」

息を洩らしながら、言葉を紡ぐ。





愛していた。



単純だった。
簡単だった。


ただ、愛していた。



あんなろくでもない俺の父親のことを。
< 305 / 813 >

この作品をシェア

pagetop