レンタル彼氏【完全版】
私は静かに首を振った。


「…三万でいいって言われたけど、支払ったこと一度もない」


「…三万…」


イマイチ、ピンと来ないのか小さく金額を反芻する。


「…寧ろ、伊織はデートの時必ず支払いしてくれたよ」


そう。
絶対に支払いしてくれた。


私が高校生だってことも、彼は絶対気にしてくれてた。
実際、三万渡しても受け取らなかったのかもしれない。



でも。
これは私がそう…信じたいだけなのかな。


私が伊織に愛されてたって、ただ信じたいだけ。



……そうなのかな…。


それから話の間も、ずっと黙っていた順二が口を開いた。


「…そいつのこと、そんな好きなの?」



それに。
言葉が詰まる。




うん、好き。

好きだよ、凄く。



口にしたら、様々な想いがただぼろぼろ零れ落ちそうだったから、必死に歯を食い縛った。


それからゆっくりと、首を縦に振った。
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