レンタル彼氏【完全版】
それからも、美佳は何かと話をして、俺はそれにああ、とか、うんとか相槌を打つだけだった。

俺達はいつも、そうだった。



俺がレンタル彼氏を始めてから、俺と美佳との間に男女の関係はなかった。

一度美佳にそのことを尋ねたら、美佳は柔らかく微笑みながら

「伊織はもう、弟みたいだから」

そうやって、俺の頭を撫でた。


「つーいたっ」


美佳との過去を思い出していた俺に、美佳が言った。
どうやら目的地に到着したらしい。

フロントガラスから見上げると、そこは高級ホテルだった。


「…………ここでご飯?」


「そーよ、はい、降りて」

美佳に促されるまま、俺は車を降りた。
よく見たら、美佳は正装をしている。


俺…適当すぎるけど。


「伊織、大丈夫、洋服も全部用意するから」

不安げな顔をしてるのがわかったのか、美佳はふふっと笑いながらそう言った。


「北村様、お待ちしてました」

美佳の目の前に、ピシッとしたホテルマンが頭を下げた。


「あ、この子、話してた子ね。よろしく」
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