レンタル彼氏【完全版】
「伊織、HAPPYBIRTHDAY」
はっきりと。
そう、呟いた。
誕生日。
「…忘れて…た」
俺はポロポロと言葉を落とす。
「やっぱりね、そうだと思った」
何で。
今日、いきなり電話がかかってきて。
いきなりご飯だって呼び出されて。
高級ホテルで。
正装で。
今日…。
今日は、9月19日だった。
「誕生日だけは、きちんとお祝いしたいじゃない」
「…………」
「伊織の、家族みたいなものだし。私」
父親も、母親もいない俺の家族。
「…………」
何も。
言葉を発することが出来なかった。
ただ、幸せだと思った。
ここに、今いることが。
「…………開けて…いい?」
震える声でやっと絞りだした言葉。
美佳は何も答えない代わりに、そっと微笑む。
目を細める美佳を見てから、俺はゆっくりと包みを開いた。
丁寧に。
ゆっくりと。