レンタル彼氏【完全版】
言葉に詰まる私を見て、鈴恵さんはまた微笑む。


「家族のことは好き?」


「……はい、家族のこと好きです。
口うるさいけど、お母さんには感謝してるし」


「泉さんは…大切に家族に育てられたんですね。
それは本当に幸せなことなのよ」


私ははっとして鈴恵さんを見た。


「家族が近くにいること、本当に幸せよ。
大事にしてあげてね」


「…はい」




さっき、笑顔を見せてくれた子供達は。

実の親といないのに、あんなにキラキラした笑顔を見せていた。



どうして、悲しいはずなのに。
どうしてなんだろう。



やっぱり私は、温かな家庭で育ったからわからないのかな…。


大きな大きな宿題が出来ちゃった。


これがわかるまで、私は児童養護施設で働けないんじゃないか。


可哀想としか思えない。
大好きなはずの、かけがえのない両親といないのだから。



ドタバタ廊下を走る音がする。

その音がこっちに近づく。
目の前まできて、扉を勢いよく開けた。


「まあまー!ドーナツー!」
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