レンタル彼氏【完全版】
掃く手を止めることなく、鈴恵さんは聞き返す。


「お友達?」


「…………うん、友達」


「行ってらっしゃい」


「……行ってくる」

何も言わず、鈴恵さんは俺を見送った。


いつもと様子が違うことなんか、きっとお見通しに違いない。
それでも、一切何も言わない鈴恵さんには、きっと一生適わない。



………向かう先は聖の家だった。


バイクを止めると、真っ直ぐ聖の部屋へと向かった。


………前に来た時のことを思い出して、変な汗がふき出す。




………まさか、泉がいるわけねえ。


すぅーっと大きく息を吸い込むと、インターホンを押した。


チャイムの音と共に、聖の声が微かに聞こえた。
すぐにガチャリと扉が開く。


「よっ、いらっしゃあい。上がって上がって」


「…お邪魔します」


ちらっと足元を見るが、女物の靴はない。
それに安堵の溜め息をもらす。


いないなら大丈夫だ。


思い込みながら、俺は聖の家に上がった。
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