レンタル彼氏【完全版】
「………ただいま」

俺の声に鈴恵さんは顔を上げると、目を細めた。


深く、刻まれたその皺も。
俺は大好き。


鈴恵さんがいたから、今の俺がいるんだ。


「早かったのね」


「うん」


そう返すと、俺は鈴恵さんと向き合うように座った。
胡坐をかいて、手を組む。


それから、俺は鈴恵さんを真っ直ぐ、しっかりと見た。


「………鈴恵さん」


「なあに?どうしたの?」


俺から目を反らすことなく、鈴恵さんは畳んでいた手を止めてしっかりと俺に向き合う。


「………俺、家出ていくよ」


「………そう、それは伊織の意志なの?」


「うん、前々から考えてた」


鈴恵さんは俺の言葉に少し考え込むような態度を見せた後に納得したように頷いた。


「…私は伊織が決めたなら何も言わないわ」


「ありがとう」


「……伊織、貴方は一人じゃないのよ」


「…………」


「わかってると思うけど、伊織にはどんな時も私がいる。
帰る場所もあるのよ」


「……うん」


知ってる。


わかってる。
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