レンタル彼氏【完全版】
俺が孤独になった時。


俺に何もなくなった時。



たんぽぽ院だけは、鈴恵さんだけは。

いつも受け入れてくれた。



感謝の気持ちを返したくても、返すことなんか出来ないぐらい目一杯。


「まだ、いつ出るかは決めてない。
明日から部屋探しに出かける」


「わかった、私も何かあったら言うわね」


「…ありがとう」


「ふふ」


「何?」


「伊織、素直になったわ」


「………素直?」


そうかな、自分じゃ分からない。
首を傾げると、またふふと笑う。


「伊織が、ここに戻って来た時とは大違いよ」


「…そう?」


「ええ、伊織はもう平気。
言わなきゃいけないことをきちんと言えてる」


「……………」


それは。






泉を失って。






果てしなく、後悔しているから。




いつまでも、近くに当たり前にいるなんて。




もう、思えなかったから。

誰もかれもが、俺の元から去って行ったから。



その時に言わなきゃ、言うことすら出来なくなることを知ったから。
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