レンタル彼氏【完全版】
一瞬。
息を飲むような静寂が訪れた。


それからゆっくりと俺は静かな口調で続けた。


「うちも裕福ではなかったから、父親が来る度一万でも二万でも持ってかれるのは正直きつかったんで。
だから、家に来た時話し合いしようと言ったのに切り出した途端、父親は逆上しました」


「…そうか、それで」


「はい、急に立ち上がって包丁を持ち出したんです。
すぐ逃げようとしたんですが、足の速さで劣る母親を守ろうと入り口で父親と向かい合った時…刺されたのは俺でなく母親でした」


「……その後に君も…?」


「はい、二人とも殺せば口封じ出来ると思ったんだと思います」


「それが母親の致命傷になったわけか…」


「……………俺は、生き残ったのに………」



…………悔しくて、顔が歪む。

本心だった。




どうして、俺は死ねなかったのだろう。


あの男が死ねばよかったのに。



母親が間に入らなければ、幸せな未来を築けたのに。





…………殺人を犯した俺にそんな未来なんてないのにね。
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