レンタル彼氏【完全版】
「……でも」


「いいのいいの、それに伊織に紹介したい人がいるんだ」


「紹介したい…人?」


「うんっ」


…………一度堕落が始まると、際限なく堕ちてゆく。


美佳が持ちかけた提案は、希望なんかじゃない。



俺を破滅へと向かわせる、絶望の道なのだから。



とりあえず、美佳の家に俺は住むことにした。
あの家には、正直近寄りたくなかった。



………あそこは鮮明に母親を思い出すから。



美佳の部屋でソファーに腰掛けると、美佳が二人分のホットコーヒーを用意して俺の隣に座った。
それを一口含む。


その温かさが酷く俺を安心させた。




母親は、死んだ。

父親が、殺した。




もう、終わったこと。

そう、納得させて。




コーヒーが入ったマグカップを、机に置いた。
美佳はまだ抱えたまま、ずっと止まっている。

そんな美佳が気になって、俺は美佳を呼んだ。


「…美佳?」


美佳は俺の呼び掛けにハッとして俺を見た。
それから美佳は目を泳がせた。
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