レンタル彼氏【完全版】
「前にここにいた男の子がね、手伝ってくれてたから。
だけど、自立したから今はいなくてね」


「そうだったんですね…」


「…ええ、伊織は頑張ってくれてたわ」





急に出たその名前に、私は目を見開いた。


ドキンドキンと、心臓が急に音を立てて鳴り始める。


…………伊織…?




「…あ、の、伊織って……」


「え?伊織のこと知ってるの?」


「……いや、知り合いの伊織か、どうかは」



わからない。

わからないけど…。



昔、孤児院にいたと伊織は言っていた。

それに何もかもを失った伊織がここに戻って来たってのも、考えたら普通のことだ。



「じゃあ、今写真持って来てあげるわ。
撮ったのあるから」


「……………」




出て行った鈴恵さんの背中を目で見送る。



手が震えていた。
さっきから心臓はうるさいぐらいに鳴っているし。



もしも、伊織ならば。




会えるのだろうか。




鈴恵さんが戻って来る時間が酷く長く感じた。

一筋の希望。





それがこんな、思いがけない場所にあっただなんて。

………誰が思うの?
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