レンタル彼氏【完全版】
何の、運命なのだろうか。



私はありとあらゆるところで伊織に交わっていたんだ。



何も、聖だけじゃなかったんだ。



初めてたんぽぽ院に来た日も。

また、ここに訪れた日のことも。

働きたいと思ったことも。

働くことになったことも。



伊織、貴方がいたから。





嗚咽をもらしながら、ずっと泣き続ける私に鈴恵さんは綺麗にアイロンをあてられたハンカチを手渡した。

それを受け取ると、鈴恵さんは

「ちょっと待ってて」

と言いながらどこかに行ってしまった。





私は再度、写真を見る。

あの頃と何も変わらない。


その、笑顔。


また胸が苦しくなる。



伊織、どれだけ会いたいと思ったか。

どれだけどれだけ、好きだと思って泣いたか。


どれだけ、どれだけ。



思っても思っても。

伝わることはないのかもしれないとずっと思っていたから。




伊織、私は信じていてよかったんだよね。


伊織だけを好きでいてよかったんだよね。
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