レンタル彼氏【完全版】
それから俺は、ただ働き、ただ作り笑いをし、ただ食べ、ただ朝を待った。



そんなことを続けていたら、いつの間にか二十歳になっていた。


どこに行っても、自由なんかない。
こんな自由、希望も夢も何もなかった。



毎日をただ絶望していた俺は、あいつと出会った。



その日も、下らない映画を見てから客を見送っていたんだ。


客が乗ったタクシーを、冷たい瞳で見つめた。




それから帰ろうと、視線を前にうつした時だった。



「伊織…さん?」




ふいに声をかけられて、俺はゆっくりと振り向く。
客、だろうか。




そう思った俺の目に飛び込んで来たのは、あどけない顔で微かに微笑む泉だった。




それが泉との初めての出会いだった。






何もかもに絶望していた俺が見た、一筋の光。


その、光を手に入れてしまうのが怖かった。


自由なんてない俺に待っているのは、幸せなんかじゃなかったから。




だから、泉を手に入れるのは怖かった。





それでも。




それでも……。
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