レンタル彼氏【完全版】
「こんな、近かったんだ…」


私は聖の案内についていきながら、独り言のように呟いた。



なんか、信じられないな。


こんな近くにいたのに、今まで会えなかったなんて。

たんぽぽ院だって、あんなに近いのに。



「…ここ、かな?」



聖は足を止めると、顔を見上げて目の前にある建物を見た。

私もそれに倣って建物を見る。



古ぼけたアパート。

築何十年だろう?ってほどのアパート。


そこは二階建てだった。




………ここに……。



伊織がいるんだ。






そう、思ったら急に緊張し始めて足が震える。



聖はそんな私に気付かないのか、先にそのアパートに進んだ。



私はドキドキしながら、ゆっくりと足を進める。



一歩、一歩。


確実に。




……………何、言おう。


何て、言おう。




………どうしよう。



頭が真っ白で、私は冷静に考えられなかった。



そこに聖の声がする。




「……いずちゃん?」



様子がおかしいことに気付いた聖は私の元へ駆け寄った。
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