レンタル彼氏【完全版】
まだテンパってる伊織なんかお構い無しに私は強く伊織を抱きしめた。



そして、嗚咽をもらす。





会ったら文句の一つも言いたかったのに。




どうして、そんなことが言えるだろう。




気持ちが想いが溢れて。



ただただ、涙しか溢れてこない。



出る言葉は。



「い、お、り」




あなたの名前だけ。






何度も何度も何度も。




伊織の名前を呟いては、私は伊織を離さないようにしっかりと抱きしめた。






「……伊織、久しぶり」



まだ、わけがわからないのか戸惑っている伊織に聖が私の後ろから声をかけた。



「……聖」




ぽつりと、そう呟く。



「な、何で…?今、何が起こってんの…?」



戸惑いながら言う伊織。


泣きじゃくって答えられない私の代わりに聖が答えた。




「…住所教えてもらったの」


「……誰に?」


「たんぽぽ院の鈴恵さんって人」


「…は?」



伊織は更に頭がこんがらがったのか、間の抜けた声を出す。
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