レンタル彼氏【完全版】
「…俺、勝てねーわ」



聖は弱々しく呟くと、顔を覆った。


それが不安になって、私は思わず聖に手を伸ばす。



「触んなっ!!」



聖が急に声を張り上げたから、びくっとして手を引っ込める。



聖は首を振りながら

「……もう、他の男に構わずに…伊織だけ見てやれよ」

そう、言った。



手で顔を覆っているけど、頬には涙が伝っていた。




「……幸せにな」



それだけ残すと、聖は走って行った。



「ひじりっ!」




振り返ることなく、聖は伊織のアパートから立ち去った。



私は。



最後の最後まで。




なんて鈍感なのだろう。






「………っ、ふぇ……」




膝から崩れ落ちた私を、後ろから伊織がゆっくりと抱きしめた。




「………わたっ、し…ひじっ、の、気持ち、知らなかった」


「…………うん」


「…………うぅ」


「…泉、こっち向いて」




そう言いながら、伊織は私の体を掴むと向かい合わせにさせた。




涙で多分、私の顔は酷いことになってるだろう。


両手で顔を隠しながら、私は伊織を、真っ直ぐに見つめた。
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