レンタル彼氏【完全版】
「それからは楽しかったよ。
今までの母親との溝を埋めるように、毎日笑ってた。
だけど、そこに現れたのが…俺の父親だった」


「………」


「俺ね?」


伊織は私の方に体を向けると、私の頬をなぞった。


「母親のこと、許せなかったけど、好きだったんだよ」


泣きそうな伊織。
こくこくと頷く。


「だけどね、あいつが来てから全てが変わった。
俺の父親。父親は俺の母親から金を取った。
それだけでなく…、夜まで…」


伊織の綺麗な顔が歪む。


「…辛い?話、止めてもいいんだよ?」


頬にある伊織の手に自分の手を重ねる。
伊織は小さく首を振ると、また続けた。



「聞いてほしいんだ。
俺の、偽りない全て」


「うん、わかった」


「その父親と、母親は離婚してなくて。
だから、俺は離婚してって頼んだの。
まあ、聞くわけないよね」



まさか、それで。

父親は母親を刺してしまったの?


“知ってる?
伊織の父親ね、伊織の母親を殺したんだよ”



聖の言葉が頭に浮かぶ。



だけど、次に伊織が発した言葉は私の予想してたモノとは違っていた。

それを聞いて、頭が真っ白になった。
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