レンタル彼氏【完全版】
「俺が、母親を刺したんだ」
何を、言ってるのかがわからなかった。
だけど、伊織の瞳は真剣そのもので。
嘘を言ってる様子は微塵も感じない。
…本当のことなの?
じゃあ、殺してしまったのは。
父親でなくて…伊織なの?
「本当は父親を刺そうとしてたんだけど、母親がそれを庇ったってわけ」
「………」
まだ、言葉が出ない私は相槌すら打てず伊織を見ることしかできない。
「だから、俺が実の母親を殺してしまったの。
…母親は父親を、あんなろくでもない男を愛していたんだって」
「……い、おり」
「救急車も呼ばず、駈け寄りもせずに逃げた父親を見て、俺はただ父親を憎んだんだ。
父親に全ての罪を擦り付けて、犯罪者に祀り上げた」
伊織ははは、っと自嘲気味に笑う。