レンタル彼氏【完全版】
突然涙を流した俺を、泉は吃驚しながら見る。
そりゃそうだ。

急に泣きだした理由が、玉子サンドを見た所為だなんて誰が思うのだろうか。



「ど、どうしたの?」


「………ごめん。
ちょっと思い出した」




“うちの玉子サンドおいしいって評判なのよ”




「……何を…?」


俺を窺うように泉はそう尋ねた。
泉は何故、玉子サンドなのかわかっていない。

だから、至極当然の問いだ。


「母親が…よく作ってくれたから」


泉ははっとして、息をのみこむ。


「……そうだったんだ」


「だから、玉子サンドって頼んだの。
ありがとう…作ってくれて」


「ううん」


ぶんぶんと首を思い切り振りながら泉は言った。



「おいしいかは、わからないけど」


「おいしいよ」


「だって、久しぶりに作ったし」


「泉が作ったものだから」


俺がそう言うと、泉はきゅっと口を閉じた。


それから少し上目遣いで俺を睨むように見ると

「伊織、ストレートすぎる」

そう言った。

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