レンタル彼氏【完全版】
これは私が優しい人がいいって言ったからか。


さっきの電話の言葉も。


本心ではないのか。



「…………」


「どーした?」


突然、黙りこくった私の顔を伊織が覗きこんだ。
その瞳は一切笑ってない。

こんなに口が弧を描いているのに。
なのに、全く笑ってない。

浮かれてて、全然気付かなかった。
いつもなら気付くのに。


ねえ、伊織。
レンタル彼氏って、こんなに苦しいものなの?



「なっ、なんでもない」



私は伊織から目を離しながら返事した。
伊織は納得してない顔だったけど、すぐに次の会話を振ってくれた。


「俺、体育だけは常に5だったなあ」


「他は?」


「ふはっ、オールあひる」


「あひる…?」


「…………オール2」


「えっ、まじで?」


「まじだよ、まじ。特に数学苦手だわ」


「なんか、納得」


「え?ちょいちょい待って。俺頭悪そー?」



少しという意味合いで、私は手でジェスチャーした。
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