レンタル彼氏【完全版】
「そう、あの伊織」



和の言葉を繰り返しながら頷く。

和は信じられないような顔で私を見てから、思い切り顔を歪ませた。





「…よかった、よかったね…泉」



心の底からこの朗報を祝福してくれているのがわかる。

だって、今にも泣きそうだ。
目には涙が溜まっている。



ここまで心配させていたんだなと、少し悪く思った。



「ありがとう…」



やっぱり直接言ってよかった。

和なら喜んでくれることわかっていたから。




「…で?」


「え?」



和は一度目を拭うと、真面目な顔でそう言った。
それに私も疑問で返す。


で?って…?



「いや、伊織とうまくいった経緯とか話したいんじゃないの?」


「あ、うん」



急かされるように私は順番に説明をしていく。


たんぽぽ院のことや、鈴恵さんのこと。

伊織と会うことになったきっかけ。

聖からの告白、全て。




だけど、伊織の過去までは話せなかった。


……いや、話したくなかった。



あの過去は私だけが知っていた方がいい事実だから。
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